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松江地方裁判所 昭和25年(行)2号 判決

原告 細田徳次郎

被告 島根県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

(原告の申立と主張)

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年十一月十五日附井尻村長名義の通知書によつてなした原告に対する昭和二十四年度第一種事業税第一期分五千四百円及び同第二期分五千四百円の各賦課処分を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

被告は、昭和二十四年十一月十五日附井尻村長名義の通知書によつて原告に対し昭和二十四年度第一種事業税第一期分五千四百円及び同第二期分五千四百円の各賦課処分をした。原告は、昭和二十二年十一月までは農業の傍ら家畜商を営んでいたが、手間不足と高額の課税のため営業が困難となつたので、同月初旬家畜商を廃業し、当時その旨を被告に届出でた。それ以來、原告は、田一町三反、畑二反、耕牛一頭を所有して耕作に從事し專業として農業を営んでいる。尤も、原告は井尻村農業協同組合の理事及び畜産運営委員を兼ねているため、牛馬商との交渉会談の機会はあるが、家畜商を継続しているわけではない。それのみならず、昭和二十三年中原告はその他のいかなる営業もやつていないのである。從つて、原告は第一種事業税を納める義務がないから、前示賦課処分に対し同年十二月中旬被告に異議の申立をした。しかるに、被告は昭和二十五年一月二十日附でこれを却下し、右決定書は同月二十三日原告に到達した。その後、原告は一應前記税額の一部を納入したけれども、もともと被告の原告に対する前記事業税の賦課処分は、前記の通り(イ)原告に何等営業所得がないのに拘らずなされたものであつて、事実に反しているから違法である。仮に原告に何等かの営業所得があつたとしても、(ロ)国税たる所得税の課税標準と地方税たる事業税の課税標準とは、全く異つたものであるのに拘らず、所得税の課税標準たる所得額を基礎として事業税の課税標準たる所得額を確定した点、(ハ)右所得額の確定にあたつて家畜商による收益と米の賃搗業による收益とを明確に区別していない点において違法である。從つて、原告は右賦課処分の取消を求めるため本訴請求に及んだものである。

なお、原告方に精米機の設備があるが、これは原告と同じ部落民の共同使用に充てているものであつて、原告が営業として使用しているものではない。

(被告の申立と主張)

被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同じ趣旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告の主張事実のうち、被告が原告に対しその主張の通りの賦課処分をしたこと、原告がその主張の日被告に対して異議の申立をしたこと、原告主張の日被告がこれを却下したこと、原告主張の日右の決定書が原告に到達したこと、原告が農業を営んでいること、原告がその主張の日被告に対して家畜営業廃止届をしたことは認めるが、原告が專業農家であること、前記廃業届以後家畜商を継続していないこと、昭和二十三年中その他のいかなる営業もしていないことは否認する。その余の点はすべて知らない。

(イ)原告は、昭和二十三年中にも家畜商と米の賃搗業とを営んでいたのであつて、本件事業税は、原告の昭和二十三年度所得税修正確定申告によつて税務署長が確定したその営業所得額十二万円を基礎としてこれに対し島根縣税徴收條例(昭和二十三年島根縣條例第四十八号)所定の百分の九の税率によつて賦課したものであり、(ロ)国税たる所得税の課税標準と地方税たる事業税の課税標準とは同じものであるから、所得税の課税標準たる所得額を基礎として事業税の課税標準たる所得額を確定することは何等妨げなく、(ハ)被告が原告の営業所得額の確定にあたつて原告主張のような区分を明確にしないからといつて、被告の本件賦課処分が違法となるわけはない。從つて、原告の本訴請求は失当である。

(各立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十四年十一月十五日附井尻村長名義の通知書によつて原告に対する昭和二十四年度第一種事業税第一期分五千四百円及び同第二期分五千四百円の各賦課処分をしたこと、原告が右処分に対し同年十二月中旬被告に異議の申立をしたこと、昭和二十五年一月二十日附で被告が右申立を却下し、同月二十三日右の決定書が原告に到達したこと、原告が農業を営んでいること、原告が昭和二十三年十一月初旬被告に対して家畜営業廃止届をしたことは当事者間に爭がない。

そこで、先ず原告が右の廃業届以後である昭和二十三年中に家畜商と米の賃搗業を営んだかどうかについて判断する。

成立に爭のない乙第二号証、同第三号証、甲第五号証、同第六号証、その体裁からみて当裁判所が眞正に成立したと認める乙第四号証、証人細田正男、十阿彌乙義、池田瑞穗の各証言、原告本人訊問の結果によれば、昭和二十三年中原告はしばしば岡山縣高梁町に開催された家畜市場へ出入したこと、同年一月二十一日原告が日本通運株式会社荒島営業所を通じ備中高梁駅まで牛六頭を出荷したこと、同年中十阿彌乙義が原告所有の牛を買受けたこと、当時、原告は諸所に預け牛を有していたこと、原告は、能義郡家畜商組合の組合員であつたが、昭和二十三年同組合の改組以來、原告の四男利吉が自らは家畜商の免許なく、また、自身家畜商でないにも拘らず、同組合に出資してその組合員になつていること、なお、原告は井尻村農業協同組合の家畜運営委員であるが、前記高梁町の家畜市場に出入したことは家畜運営委員会の事務とは全く無関係であつたことが認められ、以上認定した事実に基いて考えてみれば、もはや、原告が昭和二十三年中において営業として家畜の取引を行い、相当の收益をあげていたことについては疑問の余地がない。証人石倉兵次郎、細田金一、細田正男の各証言、原告本人訊問の結果のうち右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠は存在しない。

また、成立に爭のない乙第五号証、証人細田金一、細田正男、石倉兵次郎の各証言、原告本人訊問の結果によれば、昭和二十二年春、原告の居住部落の十二戸の者が共同使用していた水車がこわれた際、同年十二月末頃右のうち十戸の者が協議の上、二馬力の精米機を原告がその代金を支拂つて購入し、自宅に据えつけたが、その後他の部落民はその購入代金を支拂つていないこと、昭和二十三年中の電力使用量が千八百キロワツトであり、その料金約四千円も原告が負担して支拂つていること、右の精米機により原告は前記部落民以外の者の爲にも料金を徴收して精米をしていることが認められる。以上認定した事実から推せば、昭和二十三年中原告は継続的に米の賃搗をして相当の收益をあげていることを認めるに十分であり、証人石倉兵次郎、細田正男の各証言、原告本人訊問の結果によつても右認定を左右するに足らず、他に右認定を覆すに足る証拠は存在しない。かようなわけで、原告が昭和二十三年中にも家畜商と米の賃搗業とを営んで相当の收益をあげていたことが認められる以上、原告に何等営業所得がないのに爲された本件事業税の賦課処分が違法であるとの原告の主張は理由がない。

次に、被告が本件事業税の額を定めるに当つて、税務署長の確定した原告の昭和二十三年度の営業所得額十二万円をその算定の基礎としたことは当事者間に爭のないところであるが、地方税たる事業税の課税標準も国税たる所得税の課税標準も当該事業によつて得べき純益を客体としているものであることにおいて共通しておるばかりでなく、特に、事業税が所得税の補完税として資産所得重課の作用を有する建前からいつて、所得税の課税標準たる所得額を基礎として事業税の課税標準たる所得額を確定すること自体は、前者の算定に誤りのない限り何等違法ではない。そして、成立に爭のない乙第一号証、原本の存在及び成立に爭のない甲第七号証の一、二、証人種田馨、中口伸彦の各証言によれば、原告の昭和二十三年度所得税修正確定申告における所得額が二十一万九百九十円であり、そのうち営業所得が十二万円、農業所得が九万九百九十円となつていること、右の営業所得額については、昭和二十四年三月原告が安來税務署で種々交渉の結果、税務署側と妥協の結果右金額に確定したものであつて、原告は、その後これに対し異議を述べた事実のないことが認められ、また、証人池田瑞穗の証言によれば、能義地方事務所長は本件事業税の賦課に当り、原案を作成し、これを各業界の代表者からなる能義郡事業税所得審査委員会に諮り、その調査を経た上、原告の第一種事業所得額を右金十二万円と確定したことを認め得る。然らば、反対の立証のない以上、原告の昭和二十三年度第一種事業所得額を前示金十二万円と確定するのは相当であつて、本件賦課処分はこの点において何等違法はないのである。

最後に、被告は、原告の右事業所得額の算定にあたつて家畜商による所得と賃搗業による所得との区分を明確にしていないのであるが、右各所得は、いずれも地方税法所定の第一種事業によるものであつて、これに対する事業税の賦課率は同一であるから、たとえ右の如き区分を明確にしなくても、原告に賦課すべき税額には何等影響がないわけであつて、原告は右区分が明確でないことによつて実質上不利益を被むることはない。從つて、被告が前示各所得の区分をしなかつたからといつて、ただそれだけで本件賦課処分が違法となるものとは解せられない。

以上のようなわけで、被告のなした本件事業税の各賦課処分にはいずれの点からみても何等違法の点がなく、原告の主張は理由がないから原告の本訴請求は失当として棄却すべきものである。

よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 松本冬樹 組原政男 浜田治)

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